リモートなら非同期を優先せよ

オフィス環境を再現する努力はナンセンス

私はリモート環境でオフィスでの働き方を頑張って再現し、今までのノウハウをはめようとする行動に賛同できません。
いきなりのリモートに慣れず、トランジッションの一環としてオフィスでの振る舞いを再現させることは理解できます。
しかし、リモートでオフィス環境を再現させることが無理で可能な限り再現しようとしたらその努力がペイしないし、リモートワークの特徴を生かす効率化が期待できないと考えています。
例えば、全員が常時ビデオ通話のオンライン状態にキープするアプローチがよく聞きますが、社員のストレスが溜まる一向で、作業に集中しやすいというリモートワークのメリットを抹殺してしまいます。
また、オンライン参加が可能だが集まれる人がオフラインで集まって開催するミーティングがいろんな所でやられていますが、コンテキストが共有しにくく、コミュニケーションがスムーズにならないのでオフラインのデメリットとオンラインのデメリットを顕在化させるだけのプラクティスだと考えています。

非同期優先

リモートでやるなら、リモートの特徴にあわせ、同期性の高いワークフローを排除し、非同期をメインにすべきだと思います。
ミーティングの量を最小限にして、コミュニケーションをテキストベースに持っていくことはわかりやすい実践例でしょう。
ただ、非同期優先というのはやり方の話だけではなく、考え方の話も含まれます。どちらかと言いますと、考え方の方が遥かに大事だと実感しています。
まず、相手のことを常にポジティブに解釈するというマインドセットが大事です。テキストがメインになり、ビデオ通話の場合でも同じ物理空間にいるわけじゃないため、五感を生かしてニュアンスを理解することが無理です。故に、ネガティブな気持ちで説明されたことをポジティブに考えることとポジティブに表現されたことをネガティブに解釈することがありえます。経験上、後者の方がトラブルの元になるケースが圧倒的に多いです。なので、相手の本当の気持ちはともあれ、とりあえずポジティブに解釈することは全員のマインドセットに入れないといけないです。
それに付随し、コンテキストを最小限に収めることに心掛けるべきでしょう。前述のように、コンテキストを伝えることがリモート環境において難しいと言えます。曖昧さを回避し、言うことをはっきり言った方が効率的だと考えます。リアルタイムの対話なら参考情報を文脈の中に差し込むことが難しかったりしますが、テキストだとそんな制限がない為、リンクをどんどん貼り付けても構わないのでそういうリモートこその特徴を生かすべきでしょう。
さらに言うと、リモートになることでアプローチできる人材マーケットは日本に限らなくなるはずなので、全世界から優秀な人材を確保できるメリットが出てきます。異文化間のコミュニケーションにおいて、コンテキストを抑えることが大事なので、そういう意味でもコンテキストを最小限にする必要性があります。
また、アウトプットベースで物事を考えるマインドセットが大切になるでしょう。従業員の生産時間ではなく、成果物で従業員の価値を決めるべきという考え方はだいぶ前から言われ始めましたので、ここで強調する必要がありません。
ただ少し脱線しますが、最近大きな反響を呼んでいるGoogleの給料カットの話についてアウトプットベース思考の角度から分析をしてみたいと思います。この給料カットの話を要約すると、Googleは今までのシリコンバレー水準ではなく従業員が住んでいる場所の生活コストに合わせた給料を支払いたいとのことです。従業員が生活コストが低いところに移すなら、給料が減少するわけです。実際にGoogle以外、TwitterやFacebookのようなIT大手も同じ仕組みを導入しています。なぜこうなるかと言いますと、今までの採用戦略がリモートベースじゃなかったからだと考えます。残念ながら会社は従業員のアウトプットで給料を支払っているわけではなく、あくまでもその従業員を確保するために最も合理的な(大体一番安い)コストを支払っているわけです。すなわち、ローカルマーケットの相場が決定的な要素だと考えても良いでしょう。
しかしよく考えたら、これは昔のプライシングのオペレーションに似ていませんか?メーカーが商品の価格を決める際に、商品の生産コストを計算し、そこから業界平均のマージンを上乗せ、定価を決めるやり方でやっていました。一方で、今のマーケティング界では基本的にはコストでなく、商品の価値から逆算して定価を決めるようになってきています。
話を人材業界に戻しますが、リモートが主流になってきますと、ローカルマーケットの相場に合わせることはナンセンスになりますので、時間がかかりますが、従業員に支払う給料が従業員のアウトプットの価値に左右されるようになるでしょう。

生産性の担保

戦略的な話の後、戦術的なことについて考えてみましょう。リモートワークの生産性を担保するのに何が必要でしょうか?大きく分けて物理環境と情報だと思います。
まずは物理環境。リモートじゃなければ、会社が従業員の生産性を向上させる為に、オフィスを整備したりしてきたと思います。同様に、会社が社員のリモートワークの環境整備に支援することはリモート時代において欠かせないです。実際にGitLabやShopify、日本だとSmartHRなどの会社がそうしていると言われています。
物理環境と比べ、情報整備の重要性が気づきにくいものの、非常に大事だと考えます。非同期のワークフローが主流になることで、作業に必要な情報が素早く手に入るかによって、作業効率が大きく変わります。
ケーススタディーを一つ挙げます。GitLabが情報整備の重要性に気づき、「Single source of truth」を掲げ、ハンドブックファーストという考え方を実践してきました。私のようなエンジニアが「Single source of truth」を見ると、すぐデータマネジメントのイメージが浮かんでくると思いますが、角度が違うもののGitLabのハンドブックはまさに「Single source of truth」の思想を体現しています。
GitLabは、ハンドブックを静的サイトとしてメンテナンスし、ソースコードをGitLab上のリポジトリとしてホストしています。従業員みんなが常時その内容を確認・更新し、それを信頼できる唯一の情報源として利用しています。そのため、何かわからないことがあったら、迷わずハンドブックを調べますし、何か聞かれたら直接ハンドブック内のリンクを送ります。ハンドブックがGitLabのワークフローの中核にあると言っても過言ではないと思います。
GitLabのハンドブックを100%再現する必要がないと思いますが、今までのリモート経験から見て、信頼できる唯一のレファレンスをメンテナンスすることはリモートワークにおいて非常に価値のあることだと感じています。利用するツールは不問ですが、下記の特徴を備えているレファレンスがあればリモートワークの質が高まるはずです。

1、わかりやすいカテゴライズ

辞書と同じ、調べにくいレファレンスは価値がないと思います。その為、カテゴライズを重要視すべきです。わからないことがあったらどこから辿ればいいかがわかる、書きたいノウハウがあったらどのページに書いたら良いかがわかる状態は理想的でしょう。情報が拡張・アップデートされたら、既存のカテゴリーの合理性にも影響を及ぼすかもしれないから、常時見直すことが大事です。

2、全文検索可能な状態

カテゴライズが大事ですが、分類がいくらうまいと言って、レファレンスの情報量が多くなればなるほど、正攻法で調べることが難しくなります。その時、デジタルレファレンスだからこそできる全文検索が役に立ちます(なぜヤフーの代わりにGoogleが主流になったかを考えれば理解しやすい)。ツールによって全文検索の質がかなり異なりますので気をつけたほうがいいと思います。

3、相互リンクできる

ObsidianやRoamの台頭によって再び注目され始めた相互リンク(Bidirectional Link)ですが、レファレンスにとっても非常に重要だと思います。そもそも情報というものがお互いに繋がっている為、その構造を再現することは使い勝手の良さに関係すると考えます。

4、変更に気付かせる仕組みがある

知識を常にアップデートしないと時代についていけないことはみんなが知っていると思います。レファレンス上の情報が更新されたら、人の頭に記憶されている情報を同期しないとトラブります。GitLabではバンドブックの変更がMerge Request経由で実施されていてその変更が常に通知される仕組みになっています。GitLabやGitHub以外、Notionにもバージョン管理機能とそれをチャットツールへ通知する機能があるので、使用するサービスにあわせ変更に気づかせる仕組みを設けるべきだと思います。

最後に

個人の思いも込めていますが、これからのIT業界はリモート主流の時代になるべきで、なってほしいと考えています。それにあわせ、今までの働き方により構築してきたノウハウをしっかりと精査し、活かせるべき経験を活かし、捨てるべき経験をちゃんとUnlearnしなければ、リモートワークの価値が最大限まで利用できないと思っています。

Embrace remote, embrace async-first work style.

参考資料